ダイゾーが手がけるEVトゥクトゥク「eNEO」シリーズにはハイパワーモデルの「NEO-ONE」と標準モデルの「NEO-Light」が存在する。本記事では、両モデルに試乗し、その使い勝手や走行感覚、実用性などを検証してみよう。

法律上「半分クルマ、半分バイク」という不思議なEV
今回紹介する「eNEO(イーネオ)」シリーズは、「前輪1つ、後輪2つ」という3人乗りのEV。トゥクトゥクのような見た目が印象的で、ハイパワーモデルの「NEO-ONE(ネオワン)」と通常モデルの「NEO-Light」の2モデルをラインナップしている。

左がハイパワーモデルの「NEO-ONE」で、右が標準モデルの「NEO-Light」。
同シリーズの最大の特徴は、道路交通法では「普通自動車」に、道路運送車両法では「側車付軽二輪」に分類される不思議なモビリティである点だ。
クルマとしての要素は「普通自動車免許が必要」ということと「ヘルメット着用義務がない」ことなどが挙げられる。
一方でバイクとしての要素は「シートベルト不要」、「車検不要」、「車庫証明不要」、「サイドドアの設置不可」という点が挙げられる。
ざっくりといえば、車両の運転方法はほぼクルマ、維持費はバイクなみという、両者のいいとこ取りをしたような運用が可能だ。
なお、側車付軽二輪は、道路交通法上三輪の「普通自動車」として扱われるため高速道路を走行できる(上限速度80km/h)が、3輪で走行が不安定なことから、実際に高速道路で運用するのは推奨されていない。
eNEOシリーズでは、車体スペック上の最高速度が50km/hということもあって、そもそも高速道路を利用することはできない。一般道専用のちょいのりEVとして、割り切って運用することが求められるだろう。
EVとしての実用性は「2シーターとだいたい同じ」
「NEO-ONE」と「NEO-Light」は、センターシートレイアウトの運転席が前方にあり、2人乗りのベンチシートタイプの後部座席を後方に備えた、3人乗りのEV。
運転席はシートポジションを前後に10cm程度動かせるほか、シートのリクライニングもできる。もっとも、運転操作がバイクと同様にバーハンドルで完結するタイプであるため、自動車のように厳密な「シートポジション調整」は不要だ。

「NEO-ONE」のハンドル。運転操作はすべて手元にある物理スイッチで行う方式だ。
一方、後部座席は車体に座面や背もたれが備え付けられているタイプ。車両の全幅が1mちょっと(NEO-ONE:1150mm、NEO-Light:1050mm)であるため、後部座席に体格の良い成人男性2名で乗車すると満員電車に隣同士で座っているような感じになる。
また、1本のシートベルトを共有するので、後部座席に乗る人のスペース的に日常的に3人乗りで運用するのは少々厳しいかもしれない。

後部座席のシートベルトは1本を共有するタイプ。荷物を押さえる「ひも」として使うにはぴったりだ。
一方で後部座席を荷物置き場として考えてみると、フルフラットな座面は荷物の載せやすさという点で使い勝手に優れる。1本のシートベルトを荷物固定用に使えば走行中に荷崩れするリスクを抑えることもできることも合わせて、ラゲッジスペースとして利用するなら、この大きさはメリットになる。
また、運転席足元のセンターコンソールにも小物を収納できるスペースが設けられているので、走行中に絶対落としたくないもの(財布やスマホなどの貴重品)はこちらのスペースに入れておくと良さそうだ。

ハンドルと運転席の間にあるセンタートンネルみたいなスペースにちょっとした小物を入れられる。
2シーターのクルマと同様に、「基本はひとり乗り。たまに、もうひとり乗せる」という運用がもっとも適しているのではないだろうか。
EVとしては控えめな加速感。扱いやすいスロットル操作が特徴
車両の起動はプッシュ式ではなく、いまどき珍しくなった「メカニカルキーをキーシリンダーに差し込む」形式を採用。起動後の運転操作は、バーハンドルにある物理レバーと物理ボタンでできるため、一度ボタン配置を覚えれば簡単に扱える。

ハンドルの右にキー差込口、ワイパー起動スイッチ、デフロスタースイッチを備えている。
運転を開始すると、「モーター制御がマイルドである」という印象を受けた。停止状態からスロットルをいきなり最大までひねってもレスポンスはゆったりしており、どちらかといえば穏やかに加速していくといったイメージだ。
これは決してモーターパワーが足りないという意味ではなく、急発進防止を目的とした「車両制御」として実装されているのかもしれない。
というのも、ブレーキ使用時にはモーターへの電力供給がカットされる制御システムを採用している一方、成人男性が2名乗車した状態で、東京都内の有名な急坂「行人坂(平均勾配15.6%)」を坂道発進しても楽々登坂できたため、モーターのトルク不足を感じることはなかった。
また、AT車のクリープ現象が再現されず、前進・後進いずれの場合でもスロットルを回す必要があるタイプであることを考えると、こうしたモーター特性は安心機能のひとつとして設計されていると言えるだろう。
運転感覚もクルマとバイクの中間。視界や小回り性能は良好で、バック走行もできる
操舵装置はバイクと同じ「バーハンドル」であるものの、旋回時はクルマと同様に車体もハンドルも傾かない構造になっている。
つまりハンドル操作はバイクや自転車ライクで、運転挙動は3輪のクルマという少し特殊な運転感覚なので、はじめて運転するとき、旋回するときに注意が必要だ。車両の全幅に対して全高が高く、しかも前1輪/後2輪の3輪車であるため、カーブを曲がる際に減速と旋回を同時に行おうとすると、斜め前方に荷重が移動して不安定な挙動を示す。
教習所で教わった「運転の基礎」を思い出し、カーブを曲がる前にあらかじめ減速しきること、再加速するのはカーブを曲がり終わってからという運転を心がけると、安定した走行をできそうだ。

センターシートレイアウトの運転席と後部座席(2人乗り)を備える。
ブレーキは、自転車と同じくハンドル左右にあるレバーを引いて行うシステムであり、右が前輪/左が後輪というシステムも含めて違和感なく操作できるはずだ。また運転席からの視界は、「運転席側面が開放されている」という特長により非常に良好。

バイクのようなバーハンドルで操作系統もEVバイクそのもの。ただし、車体が傾かないというクルマ要素もあるため、新鮮な運転感覚を体験できる。
ちなみに、ギア選択をリバースに入れると後進可能で、バックカメラも標準装備しているため、コンパクトで小回りがよく効く車体と合わせ、安全に駐車できるだろう。

メーター画面はわかりやすいデジタル表示。ギアをリバースに入れると自動でバックカメラが起動し、メータ画面に表示される。
さらに、風雨をしのげるファスナータイプのサイドカバーを標準装備しており、雨の日でも濡れずに運転可能なほか、寒いときには風よけとして用いることで快適に移動できるのも嬉しいポイント。
普段は折りたたまれており、使う際にはおろして利用するため、乗り降りの際に邪魔になることはない。また、車体に固定している留め具を外せば簡単に取り外しが行え、新品パーツもオプション品として販売されているので、カバーが劣化しても自分で交換可能だ。

「eNEO」シリーズでは、サイドドアの代わりにサイドカバーを標準装備することで風雨をしのげるようになっている。
EVでもっとも重要な(気にする人が多い)航続距離については、カタログスペックで100kmを謳っている。
今回の試乗取材では、合計35kmを走行し、取材終了時のバッテリー残量は55%であった。これをもとに単純計算すると、航続距離の実測値は約78km、カタログ値達成率は78%となる。
ただ、今回の試乗ルートや条件はやや厳しいものだった。
①成人男性2名が乗車(合計約150kg)
②途中で急坂を経由
③幹線道路ではフルスロットルでしっかりと加速し、最高速度50km/hで巡航
と、航続可能距離を短くする条件が揃った。これだけハードなシチュエーションで利用しても80kmほど走行できるのは、十分実用的と言えるだろう。
充電については家庭用電源(100V)での充電に対応。充電口の形状がEV普通充電器と同じ「J1772」であるため、家庭用コンセントだけでなく街中のEV充電スポット(200V)でも充電できるのは嬉しいポイントである。
100Vでは6~7時間、200Vでは3~4時間で満充電になる。同車両は高速道路を走行できないことを考慮すると、利用後の充電を習慣化すれば充電残量で困るシチュエーションは少ないだろう。

家庭用電源、EV普通充電スポットの両方で充電可能なので、出先で充電することもできる。
ハイパワーモデル「NEO-ONE」の特徴

シュッと引き締まったデザインで、若干固めの乗り心地が特徴の「NEO-ONE」。
「NEO-ONE」はeNEOシリーズの上位モデルにあたり、モーターの定格出力は後述する「NEO-Light」(2kW)の1.5倍、3kWの高出力バージョンだ。実際、動き出しの加速感はこちらのモデルの方が若干素早く、足回りもかためにセッティングされているような印象を受けた。
運転席右下にあるサイドブレーキの隣にはドリンクホルダーが設置されている。「NEO-Lite」にはドリンク専用の収納ホルダーはないので、運転中に缶コーヒーや缶ジュースなど蓋ができない飲み物をよく飲むひとはこちらの車種をおすすめする。

運転席右側にサイドブレーキを装備、その後方にはドリンクホルダーも設置されている。
充電口は車体後部にあり、後部座席には充電状況のインジケーター(表示灯)を搭載する。
インジケーターは、80%以下が赤ランプ、80%~100%未満が黄色ランプ、満充電が緑ランプで点灯するため、車体の電源をつけなくとも現在の充電状況がわかるのも嬉しいポイントだ。

充電中は、後部座席部分にあるインジケーターに現在の充電状況が表示される。
気になるボディカラーは「マットブラック」「シルバー」「ホワイト」の3種類をラインナップし、車体価格は97万9000円で販売される。
【主要諸元 NEO-ONE】
通常モデル「NEO-Light」の特徴
「NEO-Light」は曲線を多く使ったデザインにより、丸っこい外観が特徴の標準モデルとなる。ポップで多彩なボディカラー、「パウダーアイボリー」「レモンイエロー」「ライトグリーン」「ミストブルー」「ホワイト」の5種類をラインナップしていることもあわせて、かわいらしさに溢れたモデルといえる。

丸みを帯びたかわいらしいデザインとふんわりした乗り心地が特徴。
また「NEO-ONE」と比べて足まわりが少し柔らかい印象で、加速・減速時や旋回する際に車体が沈み込む量が多いため、ふわりとした乗り心地を重視する方はこちらのモデルを選ぶと良いかもしれない。
充電口は運転席の下に設けられており、その右には充電状況のインジケーター(表示灯)がある。

充電口と充電状況のインジケーター
充電状況を表示するインジケーターは「NEO-ONE」とは異なり、充電中が赤ランプ、充電完了が緑ランプというシンプルなものを採用。車体の電源を起動せずに充電状況をサクッと確認できるのはeNEOシリーズに共通するアドバンテージである。
モーター出力が低いと聞くと「登坂能力」が気になるかもしれないが、東京都内の急坂「行人坂(平均勾配15.6%)」にて、成人男性2名が乗車した状態で坂道発進しても問題なく上れるパワーを持っている。
よほどの急坂地域でなければ「NEO-ONE」との性能差は気にならない程度と言えるだろう。
ちなみに車体価格は88万円と「NEO-ONE」比で9万9000円安く設定されているため、見た目のかわいさや価格の安さに魅力を感じる方はこちらのモデルを選ぶと良いのではないだろうか。
【主要諸元 NEO-Light】
誰がどのモデルを選ぶべきか。結論→見た目で選んでOK
eNEOシリーズは基本的な仕様がほぼ同じであるため、購入を検討する際の注目ポイントとしては、価格差、モーターパワー、乗り心地の違いが重要になってくるだろう。
価格は標準モデルの「NEO-Light」が88万円、ハイパワーモデルの「NEO-ONE」が97万9000円と約10万円の差がある。
モーター出力については、動き出しの加速感や登坂時の速度感に若干の違いがあるものの、両モデルともに最高速度が50km/hと横並びであるため、実用面で気になるほどの差はないと言える。

ポップな色合いでかわいらしい「NEO-Lite」(左)と、シックでスポーティなデザインの「NEO-ONE」(右)。
乗り心地に関しては、「NEO-Light」が柔らかめで加減速時にサスペンションの沈み込みを感じられる一方、「NEO-ONE」は固めで路面の凹凸を感じるセッティングであった。
よって、乗り心地で決める場合、ふんわりした乗り心地を求める方は「NEO-Light」を、スポーティーでダイレクトな乗り心地を求める方は「NEO-ONE」を選ぶと良いだろう。
また、ボディカラーの種類や車体デザインにも違いがあるため、ポップでかわいいものがお好きな方は「NEO-Light」を、スマートでシックなものがお好きな方は「NEO-ONE」をチョイスするのも良いかもしれない。
なお、ダイゾーの渋谷松濤ガレージと大阪本社ガレージにて実際に試乗できるので、興味がある人は問い合わせて実際の乗り心地を体験してみてはどうだろうか。
【試乗拠点】
■名称:渋谷松濤ガレージ
所在地:東京都渋谷区松濤1丁目8番15号
TEL:050-3619-9539
■名称:大阪本社
所在地:大阪市港区福崎3丁目1番201号
TEL:050-3619-9543
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